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青春モキュメンタリー

by tajima

 椎名林檎のアルバムのようなタイトルになったなあ。

 モキュメンタリーは架空の事件や出来事をドキュメンタリー風に表現したドラマのこと。役者はビデオカメラを片手に街を歩いたり、ドキュメンタリーの作り手を装ったりする。有名なのは魔女伝説をテーマにし、1990年代に世界的にヒットした「ブレア・ウイッチ・プロジェクト」だろうか。

 このモキュメンタリーの傑作がNETFLIXで生まれた。「ハノーバー高校の落書き事件簿」というタイトル。英題の「AMERICAN VANDAL」を思うと、邦題が少しあからさますぎるけれど。それはさておき、作品自体はすてきに馬鹿馬鹿しいのだ。ネットの評判を見ていると実話だと思っている人もちらほらいる。

 高校生が校内で発生したある事件の真相に迫ろうとする物語。授業が休みだったアメリカの高校で、教師たちの車27台に赤いスプレーのボンネットやドアにペニスが大きく描かれていた。犯人として疑われ、高校から退学処分を受けそうになっていたのが素行不良のディラン。ディランは高校のいたるところにペニスを落書きしていた悪評高い人物。ディランを毛嫌いしていた女教師は落書きだけにとどまらず、タイヤまで切られていたとして、ここぞとばかりに聴聞会で厳しい処分を求める。アリバイを証明してくれるはずの仲間たちの証言も食い違っていた。事件現場での目撃証言まであった。

 校内放送のモーニングショーでレポーターを務めるピーターがある矛盾に気づく。ディランが描くペニスの「玉」部分には毛が生えているが、事件の落書きにはない。ピーターはディランが真犯人ではないという可能性を追いかけ始める。一聴すればくだらない。しかし、日本のマスコミが手本したらいいほどピーターの取材は執拗だ。学校から疎まれて停学になるほど。浮かび上がる人間模様はコクがある。

 例えば、事件の目撃者という男子高生はほら吹きの目立ちたがり屋。彼がキャンプで「手コキ」してもらったと自慢する女子高生は学校のスターで、本当なら彼などには目もくれないはず。でも、セックスに奔放でもあったのは間違いなかったようだ。コテージの柱にはこれまでの相手のリストが刻まれていた。ディランの恋人は両親の離婚で生活が荒れ、オンラインゲームにはまり、その過程でみだらな画像もネットで披露していた。生徒会長は成績優秀だが、政治的な主張が激しい。校内での運動も過激だ。そのせいで体育教師といがみ合っていた。

 一人一人を挙げていけばきりがないが、登場人物の造形は悪趣味なまでに深みがある。判明するほど人間関係もこじれていく。もし彼らが実在していて、知り合いであれば見てはいけないものを見た気分になるだろう。

 安っぽいカタルシスも安っぽい癒やしもない。登場人物に向けられたレンズの光は冷たい。冷たいゆえに救いはない。しかし誠実に十代ならではの青春の醜悪さを映す。

 ぬるい学園ドラマばかりを押し付けられている若い人に見てもらいたい。もちろん波風立てることなく、発表文を横から縦に打ち直しているような職業ジャーナリストにもぜひ。

 



tajima
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