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ファーストバイト

by tajima

去年披露宴を開いた。
やりたいわけではなかったけれど、周囲の圧力が強くやらざるを得なかった。
お金と時間の無駄だと思うのだが、普段からお金と時間を無駄遣いしているのだからこれはこれで仕方ない。
それで、ファーストバイト。
新郎がケーキを小さな銀の匙ですくい上げ新婦の口に入れる。
次に新婦が大きなしゃもじで新郎の口に突っ込むというお決まりの儀式。
「一生食べ物にこまらせない」「おいしいものを食べさせてあげる」という意味があるとか。
これをどうしてもやりたくなかった。
人から笑われるという試練に耐えるのが嫌だった、というわけではない。
顎関節症だからだ。
中学生くらいに発症し、口はお寿司を食べるのがやっとの大きさしか開けられない。
あくびをするたびにあごが鳴る。
というわけで、僕も小さな匙で食べさせてもらった。

こちらのお願いしたケーキのデザインは白と緑色の花が載ったところに葡萄を点在させてほしいというものだった。
でも、実際は葡萄がなかった。
向こうのパティシエのミスらしい。
「ああ、載ってないなあ」とは気付いたけれど「まあ、そんなこともあるよなあ」としか思わなかった。
あの瞬間に怒っていたらどうなんだろうとは思う。
狭量な男として妻を含めて各方面から嫌われていたことだろう。

ウエディングケーキはあくまで見せるためのもの。
来てくれた人たちの口に入るのは、別に用意されたもの。
レストランウエディングなんかだとそうじゃないこともあるんだろうけど。
新郎新婦がほんの一口だけ食べただけで廃棄されるきれいなケーキ。
まさに披露宴的というか、花火っぽいというか。
ちょっと切ない。

こちらからは何も言ってはないのに、後日向こうから半額にするとの連絡があった。
高いお金を払っているので、ラッキーとも思わない。
もともとやりたかったことでもない。
こういうので怒る人がいるんだろうなと少し同情はした。



tajima
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